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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)1545号 判決 1965年3月16日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、被告は原告に対し(一)金百八十万五千円およびこれに対する昭和三十二年四月二十四日から宗済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。(二)別紙目録(1)記載の約束手形一通を引渡せ。(二)同目録(4)記載の物件を引渡せ。その執行が不能のときは不能の分につき同物件表下欄に記載の価格による金員およびこれに対する昭和三十二年四月二十四日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。(四)同目録(6)記載の有価証券を引渡せ。その執行が不能のときは不能の分につき同項下欄に記載の価格による金員及びこれに対する昭和三十三年七月五日から完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

一、森電業株式会社(以下たんに森電業という)は各種電気器具の製造及び販売を目的として昭和二十七年二月十一日設立された会社であるが、昭和三十一年十一月二十二日午前十時大阪地方裁判所において破産の宣告を受け、原告はその破産管理人に選任された。

二、破産会社は昭和三十年三月十五日頃には訴外興亜電工株式会社外四十二名の債権者に対して合計金九百五十二万五千円程の債務を負い、資産としては僅少のものを残すのみで債務超過、支払不能の状態に在つたものであり、同年六月七日には手形の不渡を出し一般債権者への支払を停止した。

三、否認対象行為

(一)  破産会社は昭和三十年三月十一日被告から金五十万円を借受け南都銀行高田支店の定期預金に振りあてていたが、被告においてこれが返済を強要したので、同年同月三十日頃右預金の満期前に払戻を受けて五十万円を返済した。

(二)  破産会社は昭和三十年二月二十日取締役会で金百五十万円増資の決議をなし、被告は一株の額面金五百円増資株数三千株のうち二百株を自己名義で、二千八百株を平井新作外三十五名の名義で引受け、その株式引受払込金として同年三月八日の払込期日に金百五十万円を株式会社南都銀行高田支店に払込み破産会社は増資手続を終りその登記をすませた。しかるに被告は右百五十万円を破産会社に対する債権であると称しその弁済を強要し

(1)  破産会社から昭和三十年四月三十日別紙目録記載(1)の額面金二十五万円の約束手形一通の裏書譲渡をさせ、

(2)  その頃別紙目録記載の(2)、(3)、(4)の各物件及び同(5)の電話加入権、同(6)の債権、株券の各譲渡をさえ受けた。

四、破産会社の前項各弁済行為は破産債権者を害するものであり、破産会社がそれを知りつつ受領したものであることは前述の経過からみて一見明白である。すなわち前項のうち(一)の弁済は破産法第七二条第一号に当り、(二)の(1)、(2)の行為は百五十万円が増資株式引受払込金であつて破産会社の債務ではないのに拘らず被告の求めるままやむなく、いわゆる非債弁済として交付したものであるから同法同条第五項の無償行為又はこれに準ずる行為として否認の対象となるものというべく、そうでないとしても同条第一号に当ることは多言を要しない。

なお仮りに前項の否認の対象となる前掲の各行為が破産会社の代表者であつた森茂個人から被告に対してなされたのであるとするならば、右森茂は、いづれも破産会社の有する前述の五十万円の預金、別紙目録記載(1)乃至(6)の各物件および権利を自己の利益において取得したうえ、これらを被告に転得せしめた関係にあるものといえるから同法第八三条第一項第一号によりその転得行為を否認する。

五、ところで被告は別紙目録記載物件中(2)及び(3)の機械、自動二輪車や(5)の電話加入権を他に処分し所持しないので被告から直接右現物の返還を受けることができなくなつた。そして右(2)(3)(5)各物件や電話加入権の価格は同目録記載の額をもつて相当とするので右物件、権利の喪失による損害の填補賠償額は合計金百三十万五千円にのぼることは明白である。以上のとおり被告のした行為を否認した結果、原告は被告に対し、

(一)  金百八十万五千円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日である昭和三十二年四月二十四日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、

(二)  別紙目録記載(1)の約束手形一通の引渡、

(三)  同目録記載(4)の蛍光燈器具の引渡、もしその引渡執行が不能のときは不能の分につき同目録下欄に記載する額による金員およびこれに対する昭和三十二年四月二十四日から完済にいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、

(四)  また同目録(6)の有価証券の引渡を第一次的に求め、前同様その引渡執行が不能の場合にはその不能の分について、同目録下欄に記載する額による金員およびこれに対する昭和三十三年七月五日から完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、

を求める。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

一、第一項のうち破産宣告のあつたこと、第二項の事実はともに知らない。森電業が手形の不渡を発表し支払停止したのは昭和三十年六月七日と聞いている。第三項の(一)は認める。(二)はうち(1)、(2)は認めるがその余は否認、第四項は否認する。

二、被告は昭和三十年一月偶々被告の甥訴外藤井太己から早川電気株式会社(以下早川電気という)の下請会社の社長という訴外森茂を引合わされて知り、森から右下請事業をやめ、独立して蛍光燈の製造販売をしたいので援助して貰いたいと頼まれ、同人が健全な会社であるとして示した経理資料等を信じて応援することを承諾し、昭和三十年三月一日被告の取引銀行の株式会社南都銀行高田支店で森に対し金二百万円を交付した。うち金五十万円は森電業に対する貸金であつて、この金は同社が右銀行支店と当座取引をするにつき担保に供すべく福禄定期預金に振りあてられた。又百五十万円は森電業の増資用資金に供するとの条件のもとに同社に交付し前記銀行支店に同社名義の別段預金とされたのであるが、然し被告が右百五十万円相当の株式を引受けるかどうかは同社の経理状態をなおよく精査検討したうえで決定することにしたが、右交付時にはその引受株数は未だきまつていなかつたのである。

ところが被告が訴外小沢初三郎をして調査せしめたところ先に森茂が被告に示した会社の経理資料は虚偽であつて経営の実体はそれより悪い状態であつた。すなわち被告は森茂に欺かれたので同人に厳談して前記二百万円の援助をすることを取消す旨申入れ、森茂及び森電業と被告の間で昭和三十年三月二十一日被告に対し右金員を返還する方法を協定しその合意を覚書に作成し、この覚書の趣旨に基き弁済として原告主張三の(一)の預金五十万円の払戻返還、(二)の(1)、(2)の各譲渡を受けたのである。

被告は右各弁済を受けるにあたり、他の債権者を害するものであることを知らなかつたのであつて否認されるべき筋合のものではない。

仮りに右百五十万円が新株引受の払込金であるとしても、その引受は森茂の詐欺によるものであること前述のとおりであり、これを理由として取消の意思表示をしたのであるから引受の効力は消滅したものというべく、したがつてその原状回復として被告が弁済受領したからといつて、それが詐害行為として否認の対象となるものではない。

(証拠)(省略)

別紙

(1)約束手形一通

額面金二十五万円、支払期日昭和三十年七月二十五日、支払地、振出地共大阪市、支払場所株式会社富士銀行津守支店、

振出日昭和三十年四月三十日、振出人穂積金属製作所穂積為夫、名宛人兼第一裏書人森電業株式会社

(2)機械

(a)三十屯油圧板金プレス 一式

本体機械 番号二六四四、製作所上滝圧力機械株式会社

製作年月日昭和二十九年六月

価格六十万円

NAK高速度油圧ポンプ

型式HG一二、機械番号一三三八、製作所右同製作年月日昭和二十九年六月

価格十万円

三相誘導電動機

型式EFO式K、機械番号六二四八〇六四出力二馬力、

製作所株式会社日立製作所

製作年月日昭和二九年

価格二万五千円

(b)スケヤ、ラヤリング(通称シヤーリングマシン鉄板切断機)

五尺×五耗モーターベルトプーリー付

三相誘導電動機

型式AS篭型、機械番号八四三八五二

出力五馬力、製作所株式会社安川電機製作所

製作年月日昭和二十八年

価格二十五万円

(3)自動二輪車ホンダドリイム号

使用許可番号大五六二五八年式一九五四年

車体番号EG五四 二一九六五機関番号四E五四二二二一二、気筒容積二二〇CC、製作所本田技研工業株式会社

価格五万円

(4)蛍光灯器具

<省略>

(5)電話加入権

<省略>

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